2012年9月の小ネタ
情報格差の実体
9月30日、出張先である神戸から東京へ戻るときのこと。このときは台風17号が神戸に上陸寸前で、日曜日の神戸からさっさと脱出しようとする客で新神戸駅はかなり混雑していた。新神戸駅をご存知の方ならわかっていただけると思うが、地下鉄の方から行くと、本来なら遠くに新幹線改札口が見えるあの廊下のところに、ずらりと人がすでに並んでいた(左の写真)。
ところが、この行列の先を追っていくと、実はそれは有人の切符販売窓口の行列で、自動きっぷうりばの方はというと、それほどの混雑はなく、3〜4人分くらいの列に並んですんなりと指定席券を買うことができた。
よほど特別な路線や座席指定をしない限りは、有人窓口に並んでいる人々の大半は自動券売機での操作によって迅速に切符を買うことができたであろうが、さてどうしてこういうことになるのだろうか、とつらつら考えながら改札をくぐり新幹線の座席に腰を落ち着けたのだが、これはなかなか根が深い問題である。
まず、そもそも利便性から言えば、有人窓口の方が切符の購入は簡単だ。自動券売機の方はインタフェースがやや複雑で、かなり慣れていないと迅速な入力は難しい。よほど出張慣れしている人ならともかく、年に数回程度の利用しかなければ有人窓口を選びたくなるのが人情であろう。
しかもこれは台風上陸間近という状況であり、確実に切符を確保しないとまったく帰れなくなる可能性がある。となれば、不慣れな自動券売機で予約するよりも有人窓口へ、という心境にもなろうというものだ。しかも相手が機械ではなくJR職員であれば、より柔軟な対応が望める。希望の列車がとれずとも、何かしら代替手段を提案したり、運行見込みと照らしあわせて適切な列車を勧めてくれるかもしれない。
とはいえ、自分がどの列車に乗ればいいのか、どうすれば少しでも状況を良くすることができるかがだいたい分かっているのであれば、有人窓口の大行列を横目に自動券売機を操作した方が圧倒的にパフォーマンスは良い。情報機器への慣れが得を産む状況である。
しかし、この得は、多くの人が情報機器に不慣れでそれを使っていない、という不均衡な状態が前提である。もしみんなが自動券売機の操作を心得ていれば、大行列のほとんどは自動券売機に流れる。待ち時間が切符を買いに並んでいる人に等しく分配されることになる。そうなればもはや個々人にとって自動券売機を使うことのメリットはほとんど可視化されない。単に面倒くさい操作をさせられる、ということになる。
思うに、情報機器とかIT技術の恩恵というのは、まだそれを使っている人が少ないからこそ成り立っていることが多い。IT技術の恩恵を説く側として、これはちょっと考えこんでしまう。情報格差・IT格差によってかろうじて恩恵が保たれているが、一皮剥けば実は便利になっていないどころかかえって不便になっているものも、少なくないだろう。