2005年10月の小ネタ

1日 [id]

今日は友達の結婚式の二次会。なんと浅草は「花やしき」を借り切ってのパーティーであり、合間々々のステージイベントの舞台監督と音響を担当しているのであった。 Hercules の DJ console を持ち込んで、BGM は PC から出してみたのだが、これがなかなか便利。ミキシングもこれでできるので、PA に何かお願いする必要もない。

場内貸し切りで、アトラクションも主要なものは動いていて、これがなかなか楽しい。夜の遊園地はいいですな。しかもそれが花やしきというのが、また趣きがあっていい。高いところに登ると、夜の浅草の街並が一望でき、これまた珍しい光景だ。

7日 [id]

研究室の B4 の学生さんの卒論中間発表会が無事終了。打ち上げ。って、中間発表で打ち上げですか? なんかみんなやたらと解放感を楽しんでいますが。たこ焼き器を持ち込んでの「闇たこ焼き」が楽しい。ワタアメはなしでしょ。

15日 [id]

人に貸していた、服部之総「黒船前後・志士と経済」(岩波文庫)が帰ってきた。マルクス主義の社会学者で、社会経済史の専門家である服部之総のエッセイ集で、昭和6年から28年頃のものまでを集めている。

この本は中学生だか高校生だった時分に社会の授業で読まされたものなのだが、当時いったい何でこれを読まされたのか、これを読んでどう感じたか、どんなレポートを提出したのか、まったく思い出せない。もっとも、もともと社会の授業を真面目に聴講していたという記憶もないので覚えている由もない。

そのまま本棚の肥やしになっていたのを、高校も卒業してしまってからだいぶの後にふと思い出して読み返してみたのだが、かつての無関心もなんのその、面白くてあっという間に読み終えてしまった。幕末の社会経済史上の小さな記録を題材に当時の社会情勢を読み解くという作業を、簡潔で明確な文章で記している。しかもそれが軽妙洒脱で読んで飽きがこない。またその着想もユニークで、「黒船前後」では、帆船から汽船へと世の中の趨勢が移り変わりゆく過程と、ペリー来航・咸臨丸の太平洋横断・日本開国明治維新とでタイミングが噛み合っていることから始めて、開国への圧力がどう働いていったかを、当時の帆船と汽船の総トン数の比の移り変わりや横浜港の寄港船名表などを引きながら、分かりやすく説明していく。

思えばこの本を課題図書に指定した社会の教師は、こういう面白い文献を導入にして歴史や社会に興味を持って欲しいという狙いがあったのだろう。あいにく、その狙いは当時の私をまるっきり外してしまった訳だが、それから10年近く経ってようやくそれが着弾したことになったのだった。実在の人物事件に題材をとった読み物が好きな人にはお薦めなので、是非読んで欲しい。文章を書くときの手本にもなる。

16日 [id]

今日から、毎年恒例になった Piksel ワークショップ。もう三回目となるベルゲン行きである。ちなみにこれまでのワークショップの模様は

を参照のこと。

先月の出張で往きの成田エクスプレスで席が取れず立ちっぱなしになった反省をまったく踏まえて、前日に予約サイトで席を取ろうとしたら、はや満席。というかまったく反省が活かされてないよ? 仕方ないので京成スカイライナーの方を見てみたら、こちらもネット予約分は満席、当日駅窓口での販売分があるのでそちらをどうぞと言われてしまった。しょうがないので、上野まで行ってみたところ、幸い席は確保できた。やれやれ。それにしても朝の便、前からこんなに混み混みだったっけ? 日曜日だというのに…。

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空港で気になったものシリーズ:

1枚目の「秋葉原まんじゅう」は、中身はただの饅頭。「メイド饅頭」「萌え饅頭」とかではない模様。 2枚目はスキポール空港の書店でみかけたもの。最近、世界中で「数独」が流行中なのだそうで、 先月ローマに行った時も、空港で山積みになっていたのだった(3枚目)。 新聞のパズル欄にも、必ずといっていい程 "Sudoku" の欄がある (しかも公共の場に置いてある新聞だと、たいていすでに解いた跡がある)。 ちなみにパズル自体はアメリカ起源だが、「数独」の名付け親は、パズル専門雑誌「ニコリ」である。 "Sudoku" ブームについてニコリの鍛治真起社長のインタビューが新聞に載っていたり、 往年のニコリファンにはなんとも楽しい現象である。
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スキポール空港での乗り換えで、5時間ほど間が空いたので、この時間を利用して一年ぶりにアムステルダム市内へ出てみた。市内まで電車で10分ちょいくらいで着いてしまうのは便利。これに比べると、成田の不便さには我慢ならない。正直、千葉県がどうなろうと構わないから、羽田も拡張して国際便の発着を増してくれないものか。

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ノルウェーはベルゲンに到着。が、空港へ来る筈の出迎えの人に会えず。仕方ないのでバスに乗って市内へ行き、手配してもらっている筈のホテルに直接出向く。

17日 [id]

そんなこんなで Piksel05 に今日から参加。今年はメインの会場が BEK の入っているビルではなく、近くのクラブ “Kroen” になっていた。このクラブなんと、かのハンザ同盟時代にドイツによって作られた地下壕 (“bunker”: 掩蔽壕) 跡地を利用したもの。写真のように、コンクリートを吹きつけただけの、水滴したたる文字通りアンダーグラウンドな空間なのであった(ただし不法占拠ではない、まったくの合法)

なんせ冬の大地をくり抜いて作られた穴の中なもんだから、いくら暖房をつけても、 なかなか暖まらない。みんな部屋の中でコートやジャンパーを着込んでいる。

懐しい顔ぶれとも再会。ただ、"FreeJ" の Jaromil と“VeeJay” の Niels と Matthijs は明日以降到着だそうなので、まだ中心メンバーを欠いている感じではある。

昼食風景。バーカウンターを借りて、パンとハムと果物の昼食。銘々が自分流サンドイッチを作る。ノルウェー名物「チューブ入りたらこ」がおいしい。

セッション一日目は会場セッティングでほぼ終了。夜には Jeff Carey による Supercollider3 の紹介と、 Ben Bogart による pixelTANGO の紹介とデモ。後者は Pure Data 上に構築した、映像パフォーマンス用ソフトウェア。

18日 [id]

今日の昼のセッションでは、Piksel 関係のソフトウェアを集めたライブCD、Piksel Live CD に関するミーティング。無事バージョン 1.0 もリリースとなったので、皆さんにも是非試して欲しい。ミーティングでは今後の展開などについて議論した。GUI のないソフトウェアの扱いをどうするか、といった話になり、EffecTV としてはどーもすいません、と言うしかない。この辺の成果を KNOPPIX などのプロジェクトに還元する方法も考えたい。

その次には、Daniel Fischer による、GStreamer のワークショップ。 Daniel は継続的に GStreamer をベースにした開発をしてきている。 GStreamer ならではの、ビデオパイプラインを駆使したトリッキーなデスクトップ作りが面白い。デュアルヘッドのスクリーンにそれぞれに同じソースの映像を流し、片方をモニタがわりにする等。ウィンドウマネージャにIon という恐しくハードコアなものを使っているのが興味深い。デスクトップの全てをウィンドウで埋めないと気が済まない人向けのもので、画面には各ウィンドウ間の仕切りしかない。

余談ながら Daniel の ThinkPad。絵が裏返っているのは、ディスプレイの画面が透けて見えているかのようにしているため。

19日 [id]

今日は夜から、近くのギャラリーを借りてのエキシビションのオープニングがあった。タイトルは “NO FUN: Games and the Gaming Experience” (Curated by Isabelle Arvers)。

Robert Praxmarer の "(t)error"。 カメラの前に立つとその形がスクリーン上に表示され、それを使って敵の飛行機やら戦車やらを攻撃する。 テロリズムとそれへの報復戦争を皮肉った内容なのだが、今ひとつ詳細はわからず。

Malte Steiner のFirst Person Spam。 3D のゲーム空間が一面、スパム広告の画像で埋め尽くされているという悪夢のようなゲーム。 敵も当然スパムだ。床に設置された圧力センサでプレイヤーを動かす。 なんとこのゲーム、全部 Blender で作られているそうだ。 今まで知らなかったのだが、Blender には簡易ゲームエンジンが付いており、 かなりの事が Blender のみでできるみたい。実行用バイナリを単体で出力することもできるそうな。 凄いかも。


TIME'S UP の CAPRES。 一枚目の写真がゲーム筐体。マイクスタンドの下には空気圧で動くペダルが一組設置されていて、 プレイヤーはその上に立って足でコントロールしながら、マイクに向かって歌を歌うことになる。 ゲーム画面(二枚目)は線画で表わされた 3D 空間で、歌を歌うと、 地面にそれを録音したことを示す白線が引かれる。もう一度その上を通過すると、 録音されていた音が、通過した際の速度にあわせて再生されるのだ。 うまくその場でグルグル回りながら歌うと、一人多重録音も可能。これが一番面白かった。 ちなみに画面写真で上の方に見える赤い門は、"KARAOKE BAR" への入り口。 ここをくぐって行くとエルビスの歌があらかじめ記録された線があり、さらに歌詞まで表示される。 エルビスと一緒に歌うことができる訳だ。

他には、Mindbending という、 FPS のゲームシーンが、プレイヤーの動きを検知してグニャグニャ変形するという、謎のゲームも展示されていた。激しく動くと激しく変形され、まるでゲームにならない。泥酔している時の視界を再現されているみたいで、非常に気持ち悪い。

20日 [id]

Niels と Jaromil も到着し、いよいよコアメンバーも集まったということで、 LiViDO ミーティング開始。ちなみに今のメンバーは左から、 二枚目に移って、 Cinelerra の非公式 CVS ツリーのメンテなどを担当している Andraz は今年の新顔。 去年の LiViDO 仕様策定ミーティングでは、メールでの参加をしており、 彼がオフラインの間に決まった仕様にことごとく不満を表明していたのだが、 今年はめでたく直接参加となった。

さてここで LiViDO とは何かという話をしておこう。元々は、Piksel ワークショップ参加者の各自のソフトウェア間で映像イフェクトのプラグインを共通化しようというところから始まった。仕様自体は 2003年のワークショップですでに議論が始まっているのだが、 2年間かけて、まだ合意に達しない中途半端な仕様と、それに基いた実装が4種類(!)あるという状態になっているのが現状。話がややこしくなった原因の一つに、ノンリニアビデオ編集システムでこのプラグインを使いたい、という要求があるためで、実際にコンタクトしてきたのが Andraz なのであった。

これまでは上記の理由であまり強い立場で仕様策定には関わってこれなかった Andraz だが、今回のミーティングでは Andraz が非常に強い発言力を発揮していた。意外にも、機能要求を取り入れ過ぎて膨れあがっていた LiViDO 仕様の単純化のためにバッサバッサと仕様の切り捨てをしていく過程でも、 Andraz が先陣を切っていたのだった。その後のミーティングも、事実上 Niels と Andraz がそれぞれリアルタイムイフェクト代表とノンリニア編集代表として二人で主導権を握る展開となり、これが奏効してかなり速いペースで議事が進行していくようになった。やっぱり人数が多いと話がまとまんないし、こういう形の方がいいのかもしれない。若くて実装力のある二人だし、今後もこの二人のリードに任せていこうという空気が醸成されつつあるようだ。

ちなみにこの Andraz、スロベニア在住で、数々のオープンソースソフトウェアのプロジェクトに関わっており、 しかもスロベニアのテレビでコンピューター技術の月一番組まで持っているという、 歳の割に大変な実績を持っている。 余談ながら、期間中彼が使っていたラップトップはキーボードが壊れていたため、 写真のようにしてさらにフォルダブルキーボードを繋いで使っていた。 ハッカー気質の人でフォルダブルキーボードを常用している人を初めて見た。
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夜には、Free Software Foundation の David Turner による、“Trusted Computing” の話。真に信頼できるコンピューターとネットワークとはどうあるべきか、といった話を、フリーソフトウェアの観点から語っていたのだが、いまひとつピンと来ず、内職コーディング。

21日 [id]

LiViDO ミーティングでは、相変わらず仕様切り捨てが進行中。ほぼ仕様は決まったのだが、プラグインの各関数の呼び出し手順の仕様がうまく定まっていないという指摘があり、しばらくこの問題に取り組むこととなる。順番としては、サポートするデータの決定よりも、こっちの方が先だろうという気もするのだが。

今日から、gggl という画像処理ライブラリを開発しているPippin がミーティングに加わるようになった。 gggl は GEGL をベースに、API の単純化とパイプラインの DAG (directed acyclic graph) 化をサポートしたもの。デモを見せてもらったが、単に静止画像の処理のみならず、リアルタイム動画像処理にも適用できている。ちなみに GEGL とは、GObject のクラスとして提供される汎用画像処理ライブラリで、将来 GIMP に取り込まれることが予定されている。

今回のミーティングでは、彼の経験が特に画像フォーマットに関する議論に大変参考になった。

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午後は、SUb Multimedia の Federico Bonelli と Free Software Foundation の Janet Casey による、 "Sustainable Source" プロジェクトのミーティング。いかにして「持続可能」なフリーソフトウェアプロジェクトを運営するかについて、 プロジェクト運営者どうしでの情報交換や、ビジネスモデルの共同構築などのための場を作る、 という話。特に我々の場合、個々のアートプロジェクトのためにソフトウェアが作られるという側面があるため、 まずは持続可能なアートプロジェクトを如何に構築するか、という問題の方がむしろ強い。 ソフトウェアのソース公開とそこからの収益という簡単には成立しないモデルに加えてさらなる問題がある訳だが、 うまく行けば、ソースは公開してオープン開発の利点を享受しつつ、それを使ったパフォーマンスで金を稼ぐ、 という形に持っていける。フロアでも活発な議論が始まった。まずはノウハウの共有がどんな形で可能か、 模索することとなりそうだ。
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夕食の後、「近くの港でサウナをやるから来い」というアナウンスが。どうやら、仮設サウナがあるらしい。ホテルの風呂がシャワーのみで不満だったのだが、これは丁度よいと早速タオル片手に港へ。

お、みんな集まってる。いやー今夜も寒いですな。しかも雨まで降ってきて。 で、二枚目の写真が件の仮設サウナ。 必要なものは木の枠組と布、あとはサウナ用ストーブと煙突くらい。随分簡単に作れるようだ。 んー、ところで、着替えるのは隣のテントでですか。つまり、このノルウェーの寒空の下を、 北緯60度のベルゲンの夜を、裸でテントからサウナ小屋まで移動せよと? しかも周りに普通に人がいますよ?
という訳で入ったさ! サウナ小屋に入るまでは地獄の冷たさだったが、 いざサウナに入ってみれば、あれ、ここは天国? いやー快適ですよこれ。 北国でサウナが発達した理由がよくわかりますな。ストーブでカンカンに熱された石に、 柄杓で水をかけると、ぶわぁっと蒸気が立ちこめる。それだけでもう体が暖まっていく。 小屋はひとつっきりなので、男女混浴。みんな Piksel ワークショップの参加者なのでその辺は気兼ねがない。 遠慮なくおしゃべりで盛り上がる。ふと見ると、あれ、天井にマイクがついてますが。 なんとこれ、"Radio Sauna" という企画で、この会話の模様は漏れなくネットストリーミングされますって。 なんちゅう企画じゃ。何故かみんな話をシモネタに持って行きたがるなぁと思っていたら、 これが理由か。

さて、サウナで体が熱くなったら、水風呂に入るのが普通ですね。とはいえ、今日のは仮設だけあってそんな用意はありません。幸い外は雨模様なので、それで水風呂のかわりとするか…。え、外へ出ろ? 何のために岸壁にサウナ小屋を立てたか教えてやる? さて外へ出て、岸壁へ行ってみると…

ドッボ〜ン!!

ここ、北緯60度ですよ!! 稚内よりも北ですよ!! なんの罰ゲームですかこれ?!

…と焦ってはみたものの、思ってみた程冷たく感じない。むしろ気持ちいいくらい。それにしてもこの飛び込みで、これまでの海水浴における緯度(北緯60度)、季節(秋)、時刻(夜9時)、諸々の記録を一気に更新した。もちろん、港で素っ裸になって飛び込んだのも初めてだし、裸で梯子を昇るのも初めてだ。

こっちに来てからかなり血行が悪くなっていた感じだったのが、これで一気に改善された。仮設サウナいいなー。日本でも野外フェスティバルとかでやりたいね。

22日 [id]

LiViDO ミーティングも佳境に入り、これでひとまず仕様決定という運びとなった。最後には BEK のオフィスに場所を移して、コアメンバーのみで作業を進め、ついには Niels と Andraz の二人で最終段階をこなしていた。あとは実装段階なのだが、今ある実装をほぼ捨てることになるだろう。まずは Andraz が、 test first 方式にのっとり、プラグインのテストプログラムを書き始めることになりそうだ。最初のミーティングから2年、長い道のりだった。何故こんなに長くかかったか? を分析することが重要だろう。これは僕の課題として取り組んでみたいと思う。

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明日で Piksel ワークショップもおしまい。 今日は "Megapiksel VJ battle" と題して、スクリーンを4枚仕立てて、 最大4人での VJ バトル。参加者がみんなやりたがったので、順番待ちになるくらいだった。 明日の早い便で帰る人も多いので(僕もそうだ)、 今夜がお別れパーティーみたいなノリになってきた。

Erich Berger は今日到着。昨年の Pikselで素晴しいパフォーマンスを見せてくれた Erich のショウは明日。残念。

右の画面は pixelTANGO によるもの。完全自動モードで動いていた。

僕はというと今回特に新ネタは用意していなかったのだけど、せっかくなので、昨年やったネタのシステムを再利用して、パフォーマンスの内容をぶっつけ本番で変えてやってみた。“VJ battle” なのにパフォーマンス的なものにしてしまったのは若干ルール違反だけど、これが思いの他音楽にマッチしてとてもうまくいき、非常に好評だった。もうちょっと内容を詰めたら、国内でもやってみたいなぁ。去年のレーザーの奴も、まだ日本ではやってないんだけど。

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さんざん飲んだのち、一部は BEK に移動してまた飲みの続き。僕はというと、明日の朝出発なので、徹夜で飲むグループへの合流は避けたものの、 Jaromil が土産で持ってきた、"Amarula" という強い酒を飲みに、Jaromil の部屋へ。ここで、LiViDO の今後についてやや呂律が回らない状態ながらも語り合う。現在のプロセスモデルだと、ビデオパイプラインの処理と非同期に起きるイベントの処理をうまく扱えないという問題があり、ではどうすればいいのかという話に。これはノンリニア編集組にはまったく関係ない要件になってしまうので、場合によっては現在の LiViDO とはまた違ったものにせざるを得ないかもしれない、という話になってきた。

さらに酒が進むにつれ、話題は「何故 LiViDO は2年もかかったか」に。このとき何を話したかほとんど覚えていないのだが、万能ツールにするべく何にでも対応しようとしたのと、リーダー不在の議論が問題なのかなぁ、とかいった話だったか。

これについては場所をあらためて論じたいが、とりあえず「LiViDO は、難しい課題である」という認識が初手の段階で欠けていたというのが一番の問題のような気がしている。なまじ、各自が自分のソフトウェアで動くものを作っているが故に、「ちょっとインターフェースを擦り合わせればできるだろう」と皆が思っていたのだけど、いざ手をつけてみると、各自の要求がまるで異なるというのがはっきりした。そこで、仕様が膨れ上がっていってしまったが故に後から後からボロが出てくるという事態を招いていた訳だ。去年の展開をあらためて読み返すと、この頃から僕の中ではすでにあきらめムードが漂っていたことがよくわかる。

さて今後どうするか。ひとまず仕様も固まったことだし、ここは Niels と Andraz に任せて、プラグイン開発による側面支援に徹しようかな。

ちなみに Amarula はフルーツクリームをベースにしたお酒で、すごく甘くてクリーミーな口当たりながら、とても強い酒でした。結構うまい。

23日 [id]

今日でベルゲンともお別れ。昨夜は雨模様だったため、また霧で空港が閉鎖されたらどうしようと思っていたのだが、スッキリと快晴。何の問題もなく一気に成田まで。

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ところで、KLM の成田⇔アムステルダム間はボーイング777で、各席でオンデマンドで映画が観られる。で、最近はディズニーアニメを機内で観るようにしている。なかなか観る機会がないし、レンタルで借りてきて一人で観るには不向きなもので…。「ピノキオ」「ピーターパン」「ドナルドダック」「プルート」「リロ&スティッチ」「白雪姫」と見まくった。「リロ&スティッチ」の方は、TVアニメシリーズの方は観たことがあったのだけど、映画とTVアニメで画のクオリティがほとんど変わらないというのが凄い。どう凄いのかよくわからんが凄い。「ピノキオ」は、これは本当に素晴しい。お話の説教臭さはともかく、動きよし、構成よし、歌よし音楽よし。ディズニーアニメの最高傑作と評する人がいるのも頷ける、

ところで、最近妙に涙もろい。ピノキオのオープニングタイトルで「星に願いを」が流れるところでもう涙ぐんでしまった。先月の出張ではティム バートンの “Big Fish” (amazon) を観ていてやはり涙ぐんでしまった。「俺はこの5インチにも満たない画面を観て泣くのか?」と、ちょっと悔しかったので、そこはぐっとこらえて、帰ってきてから DVD を注文してしまった。やっぱり映画館で観ときゃよかった。

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そんなこんなで成田には無事到着しました。さっさと帰るぞ。それにしても…

ふだん、たかだか10分の移動においても電車の座席に座れるかどうかで一喜一憂している我々はなぜ、 放っときゃ出てくる自分の荷物を取るために10分も20分も立って待ってますか…。

26日 [id]

Piksel 期間中、Scott Draves から突然 「今日本にいるんだけど、会えない?」というメールが舞い込んでいたのだが、 ノルウェーじゃぁどうしようもない。幸い、27日まで滞在とのことだったので、 せっかくだから講演をしてもらおうという算段になっていた。 ということで今日、産総研秋葉原オフィスの一室を借りて、1時間ほど喋ってもらった。

Scott Draves はソフトウェア開発もこなすメディアアーティストとして、 サンフランシスコを本拠地に活動している人で、一頃はインターンで日本にもいたことがあるそうだ。 主にフラクタルを応用したイメージ生成手法を研究し、当初は静止画の生成をしていたが、 やがてそれを応用した動画生成を始める。 それが "The Electric Sheep" というプロジェクトである。

各々の絵は162次元のパラメータ空間によって構成されており、 そのパラメータをちょっつづづ変化させていくことでアニメーションが生成される。 しかし、一枚の絵をレンダリングするのに現在のマシンパワーでは2時間くらいかかってしまい、 とてもアニメーションなど作ってはいられない。 そこで彼が採った手法は、"SETI@home" のように、 ネットワーク上の多数のコンピューターを使って、並列に描画させてしまうという手法である。 各マシンには、スクリーンセーバとして機能する、Electric Sheep レンダラをインストールしてもらう。 それぞれのマシンがスクリーンセーバを稼働させると、キーフレームを構成パラメータセットを入手し、 レンダンリングしてそれをサーバーにアップロードする。 サーバはそのイメージを繋いでアニメーションを生成する訳だ。

ここで面白いのが、アニメーションを生成する上で必要なパラメータの更新方法は、各クライアントに任されているというところ。つまり、与えられたパラメータセットからどのようにアニメーションさせていくかは、クライアント側で決定できるのだ。当然、やり方次第では良いものも悪いものも作れてしまう。そこで、何が良い、何が悪いの判定もユーザーに行わせ、その判断をフィードバックさせるという、一種の遺伝的アルゴリズムによりパラメータを更新させていくという手法が採られた。

さらに、同じキーフレームのパラメータセットを複数のクライアントに与えることで、あるキーフレームから出発するアニメーションを複数得ることができる。そうすると、最初のキーフレームを頂点とする複雑な有向グラフを最終的に得ることができるのだ。このグラフを好きなように渡り歩いていくことで、一編のアニメーションを生成することができるようになる。

講演では、最新の成果である、高精度版の Electric Sheep のデモがあった。これは画面解像度が 1280×720 ピクセル、加えてレンダリング時には HDR (High Dynamic Range) を採用し、色深度の解像度も向上させたもの。その成果は Scott のページを参照していただけば一目瞭然。彼はこのアニメーションをループ再生する専用マシンをキューブ型 PC で作り上げており、クラブやバーなどの空間に設置するとを考えているそうだ。

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講演が終わって、参加者も交えて秋葉原で飲んだ後、Scott と六本木へ移動し、SuperDeluxe へ。 Scott の友達らが来ており、さっそく Electric Sheep のデモをしていた。期間限定で SuperDeluxe でも展示されることになりそうです。

31日 [id]

帰国してからずっとかかりっきりの仕事の最終段階をこなすため、原宿 KDDI DESIGNING STUDIO へ。デザイナーの 東泉一郎 さんのもと、Tokyo Designer’s Week 2005 の出展作品をずっと作っていたのでありました。

KDDI から話が来たのは今月に入ってからで、一応打合せだけは出発前に済ませてはいたものの、自分の担当分であるビデオ処理システムについてはノルウェー出張中は結局ほとんど作業できず、帰国してからの一週間で形にしていくことが迫られていた。それにも関わらず色々と新手法に挑戦していたため、実際のシステムのプログラミングに取りかかるのが遅れてしまっていたりとか、加えて、マシンの調達が遅れていたため、本番のシステム構成でのテストを一度もしないまま今日まで来てしまっているという、なかなかにデスマーチな進行になってしまった。それでも、今までのコードの蓄積も手伝って、大急ぎでコードを書いた割には、システムはかなり安定していたのではあるが。

さらに困ったことに、現場作業において、会場がオープン前日の夜まで通常営業していたため、設営は夜8時スタートという無茶苦茶なことになっていた。当然、完全徹夜態勢での設営。大勢集まってガヤガヤと徹夜設営していると久しぶりの学生気分。途中、終夜営業のファミレスで遅い晩飯なぞ喰っているとまさにそんな感じだ。

引越し作業風景みたいだが、れっきとした設営作業。今回は東泉一郎デザインの段ボール箱を 200箱近く用いている。その組み立てが夜通し行われていた。