How To Trap
「卒業文集のトラップ」には、パズルのヒントとなる言葉がいくつか用意されていた。図3のパズルは、カードの向きがポイントとなっていたが、これを暗示する言葉は、「再会」の船越のセリフ中にある。
「…そういう事になるかな。でも僕は嘘は苦手でね。言葉では騙せても、すぐ顔に出るからね」
「ジョーカー = 嘘つき」であり、カードに記された言葉、すなわちアルファベットから導かれた答「NO ANSWER」には意味はなく、その顔で示されたカードの向きに意味があったのである。また、図4のページのタイトル「Upside Down」も、カードの上下の向きに注意を促している。
Question 2 の答「船越賢一」は、作者である「福地健太郎」とイニシャルが同じである。ちなみに図4の文集委員の名前はすべて、実在の委員とイニシャルが同じになっている。
このパズルは、フジTVの深夜番組『Trap-TV』を参考にして構成されており、『Trap-TV』へのオマージュも随所に仕掛けられている。
Question 1 の解答「THE THIRD MAN」は、『Trap-TV』最終話のトラップの解答と同じである。番組では、殺人事件の犯人が、番組冒頭でのスタッフ紹介で三番目に紹介される人物、番組のナビゲーター「吹越満」であるという仕掛になっている。また、「挑戦者のトラップ」の解答「MASQUERADE」は、番組で挑戦者の吉田朝が吹越満に仕掛けたトラップの解答を指し示しているのである。また、「再会」での挑戦者のセリフ「明日は私の誕生日だ。」も、吉田朝の仕掛けたトラップを解く途中で表われる文「My Birthday」にひっかけたものである。
結局「隠された問い」とは何だったのか。これは卒業文集作成までの経緯に関連している。卒業文集編集委員が結成されて最初の仕事は、「卒業文集を作るか否か」のアンケート集計であった。そして、半数近くが文集作成に反対、という結果が出たのである。はたして彼等に強制的に文を書かせてまで卒業文集を作る意味があるのだろうか、という疑問が、文集委員を悩ませていた。しかし、彼等はどうしても、学生生活最後の仕事をどうにか全うしたい、という思いから、 文集作成に踏みきったのだった。
そしてまた、文集作成の仕事は、教師側からの検閲圧力との闘いでもあった。担当教官に、原稿を一読してつっ返される事態が多発したのである。せっかく学生が書いた文章をそのまま載せられない上に、企画ページにも思うように文を書けない苦しみが、先述の疑問と合わせて、文集委員にのしかかっていた。
実際の卒業文集に仕掛けられたトラップでは、「何故このトラップを仕掛けたのか?」という問いに対する答は、「真実を隠すため」となっており、その「隠された真実」というのが、こうした文集委員の思惑であり、苦しみである。そして、トラップ全体が、教師側からの検閲圧力に対する反抗でもある、という構造になっていた。エピローグ冒頭の引用句が示す通り、「文集の真実は文集の中に」隠されたのである。
しかし、後年このトラップを公表するにあたって、だいぶ年月を経た事もあり、文集編集委員も同期の皆も、文集というものに対する考え方も変化したであろうという思いから、若干の改変を加え、「隠された問い」が追加された。この「隠された問い」こそ、当時の卒業文集編集委員並びに同期生に対し発された問いである。
我々はうまくやったか?