再会

「やぁ。きっとここへ来ると思っていたよ」

「あの日から…もう随分経ちますね」

「年月は人を変える。かつて心に強く刻みこんだつもりの思い出も、時と共に風化してしまう事もある」

「その一方で、変わったようでも、意外なところでちっとも変わっていない事もある」

「一体何が変わって、何が変わらなかったのか…それを確かめる事ができるものの一つが、その時の思いを綴ったもの、文集だ」

「その文集にあなたが仕掛けたトラップ—」

「今日はその事で来たんだろう?」

「ええ」

「という事は、全てのトラップを解いたのかい」

「そのつもりです」

「聞かせてもらおう」

「答はない。そうでしょう」


「…どうしたんです?」

「残念ながら、君はまだトラップの全てを理解していない。隠された全ての仕掛けを君は見付けていないんだ」

「待ってください。あなたはあの時確か、何も隠していないと言った筈です。あれは嘘だったんですか」

「…そういう事になるかな。でも僕は嘘は苦手でね。言葉では騙せても、すぐ顔に出るからね」

「すると他にまだ何か隠されているのか…」

「嘘をついていたお詫びに一つだけ、隠されたトラップについて教えてあげよう」


「隠されたトラップ、それは、『問い』だ」

「問い?」

「そう、文集作成に関わった仲間達への、そして同期生全員への、一つの問いだ。今となってはその問いがどれ程の意味を持つかはわからないが、ある意味、こうして年月が経ったからこそ、改めて意味を持つ問いでもある」

「…そうした謎めかす物言い、ちっとも変わっていませんね、あなたは」

「そうかい」

「じゃあ、今度は私も少しは進歩したとこをお見せしましょうか。私もあなたの真似をして、トラップを仕掛けてみたんですよ」

ORCHESTRAS

「これは何を意味しているんだい?」

「はは、特別な意味はないんですよ。単なるオマージュでしてね」

「オマージュ?」

「そう。トラップというゲーム、そして私という存在に対してのね」

「しかし…」

「なに、トラップは単純です。あなたが仕掛けたトラップをそのまま使っているんですから。与えられたものは一度捨てなければならない。するともう一つの解が浮かび上がってくる」

「…なるほど、君はだいぶ成長したようだね。肝心なトラップについては理解していたという訳か」

「明日は私の誕生日だ。それまでに解く事ができなかったら、プレゼントにあなた秘蔵のワインでもいただきましょうか」

「まだ時間はある。早速解かせてもらうよ。だがその前に—」

「紅茶をもう一杯、でしょう?」