電子書籍ならでは、の本を読みたい

以前 Twitter で連続ツイートした「電子書籍で流行るもの」を再編集してみた。電子書籍が普及することで、どんな本や企画が登場するだろうか。こんなの読みたいな、という期待を込めたものから、きっとこんな企画のものが出るんだろうなというものまで、色々考えてみたもの。こちらでは140字制約がないので、ちょこちょこ加筆してある。

[t]ドリー夢小説。主人公の名前を自分の名前に。
[t]タイアップ0円小説。ソフトウェアにお金を払うのに抵抗のある人がしばらくは多いだろうから、元祖「ポパイ」みたいな広告宣伝目的のものが無料で配布される。
[t]予定読書時間を入力すると、それに見合った長さのものを探してきてくれる。
…というのを考えていたのだが、インタラクション2012での大阪大学伊藤さんの発表「ヨミログ:読書ログによる個人に応じた読了時間推定システム」で実現されていた。
[t]「朝のガスパール」とデアゴスティーニ商法とニコニコ動画の「世界の新着動画」がくっついたような雑誌形式の書籍。第一号はいろんな小説の連載第一回を集めたものがお得価格で売られる。だんだん、人気投票下位が落とされていき、生き残った連載が利益を山分けしていく。従って連載が続けば続くほど印税率が良くなっていく。
[t]重要なところにさしかかると1ページめくるのにえらく時間がかかるようになるホラー小説や、前のページに戻れない推理小説など、ページめくり機能のハック。
[t]すれちがい通信カットアップ小説。隣の人が読んでいる小説の断片が自分のところになだれこんでくる。
[t]井上夢人「99人の最終電車」を、99人の作家が並行して書いたような本。99人に限らず、誰でも勝手に書き加えていいよ、にするといつのまにか「最終満員電車」状態になってたりして。金曜夜の井の頭線か!
[t]ショートショートの復権。あらゆるジャンルのショートショートが現われる。恋愛ものだって、「サラダ記念日」が短歌を連ねて表現したように、ショートショートで十分表現可能な筈だ。
[t]往復書簡スタイルで書き続けられる小説。リアルタイムでそれを購読できる。どちらかというとケータイ小説向きの企画かもしれないけど。
[t]実世界と連動性の高い内容はむしろ電子書籍には似合わないかもしれない。紙の本はその時代の空気ごとパッケージ化されるけど、電子書籍はそうでもなく、ずっと色褪せずに存在し続けてしまうかもしれない。いつ読まれても、それは読んでいるその瞬間のもの、と捉えられる傾向があるんじゃないだろうか。
[t]そんなもんだから、つまらない予測だけど、連動性の低い名言集とか人生訓系や「○○する100の方法」みたいなのがしばらく流行るんじゃないかなぁ。あとは、広告つきで「節約レシピ」とか「5分で儲ける方法」みたいな、パンフレットみたいな文章量の安価な電子書籍が溢れかえりそう。
[t]TVドラマやアニメで、放映直後にその回のお話を配信。本放映ではうっかり見逃していた箇所や、登場人物の隠れていた心理描写が文字で補完・補強されていく。逆もありかな?
[t]さっきまでの予想と裏腹に、大長編小説。電子書籍端末はまだまだ重いので、その重さに見合った文章量を一冊の書籍に求める傾向が出ないとも限らない。当然、長編小説を読むのに便利なツールつき。登場人物リストとか、オートブックマークとか。
[t]そういえば、読み進めた場所に応じた登場人物リストは結構ありがたいかもしれない。まだ知らない人物名がリストに載ってたりすると興をそぐ事もあるからね。
[t]ズバリ「ダイジェスト誌」と書こうとして @ayatsuka_yuji に先を越された。
[t]本の level of detail ですね。RT @ayatsuka_yuji: 印刷するコストがないと、長編小説の各種ダイジェスト版(読みたい長さで読める) とかの需要が増えるんではなかろうか。> 電子書籍
[t]全国の図書館の司書が有効利用されていない、という話があったけど、世の中のニーズと司書とをマッチングさせる仕事なんてのも出てくるかもなぁ。地域図書館・貸本・実用書・司書(+広告)の交わるところに、電子書籍の未来があるのかも。すでに松岡先生が tweetされているように、壁もあるが。
[t]ルビのハック。ルビの長さの制約が緩和されるし、常時表示・クリック時のみ表示とかよりももっと変なやり方を模索する動きが出てくる。ルビの方に漢字を使うとか、文字サイズの制約により難しかったこともどんどんできる。黒丸尚的ルビの復権を!
[t]Consumer generated 脚注(注釈)。市販の本に勝手に脚注を誰でもつけられる。電子書籍端末での表示に適した量の脚注を書くスキルが要求されるけど、ウンチクを述べたい人は多いから、量は集められそう。質の方は、Amazon レビュー方式で担保する。
[t]みんなで一冊の本を読む。みんながそのページにどれだけ時間を費したか、何度読み返されたかなどの情報の蓄積を、サーバーがこっそり握るだけじゃなくて、読者にも何らかの形で還元されるべきだ。
[t]年表とか設定のみの先行公開。あるいはボルヘスのように「こんな(架空の)本があるらしい」という形での、あらすじ出版。細かいところは後から追加していく。ボルヘス法を応用すれば誰でも簡単に(それっぽく)出版できます!
[t]登場キャラクターの年齢設定が時の条例にあわせて動的に変化。必要とあらば見た目の描写も変更可能。
[t]Kindle や現行の電子ペーパー利用端末限定で、画面焼き付きを利用した恐怖演出。あるいはアハ体験みたいにじんわりと…。

…とまぁ、思いつくままにダラダラとツイートしていたんだけど、あらためて考えてみて思ったのは、

あんまり枠を広げ過ぎると「それははたして『本』なのか?」ということにもなっちゃうんだけど、ギリギリで「本」に踏みとどまった範囲内(オレオレ基準だけど)でも、まだまだやれる事はありそうなんだよね。

ただ、いくら新しいアイデアを思いついたとしても「どうやって作るのか」「どうやって配るのか」という問題はつきまとう。つまりこれは、オーサリングツールと配布メディアの制約の話になってしまう。特にオーサリングの方は問題で、下手をすると文章を書いてプログラムも書いて、という労力を払わないといけない。それができる作家も確かにいるかもしれないが、それとて、小説を世に送り出すには校正や編集作業が必要なように、デバッグだのメンテナンスだのの人手が必要になってしまい、それは作家一人が負いきれるものではあるまい。

どうするか、というと、やはり野尻さんがニコニコ学会βのセッションで述べられたように、ネット上でのコラボレーションという形で実現するのが一つの道だろう。電子書籍ならではの「仕掛け」を専門とする編集者やプログラマが出てくるという未来が、やって来ないかなぁ。

2012.5.10