『ゲイングランド』紹介
デザイン
これから何度も書くことになりますが、『ゲイングランド』の魅力はその斬新なゲームデザインにあります。 基本は固定画面トップビュー型のシューティングゲームで、 プレイヤーは最大20種類のキャラクターの中から一人を選んでステージに送り込みます。 20種類のキャラクターは、それぞれの特性が多彩で、 足の速さ・持っている武器・その破壊力や射程距離などが少しづつ異なります。 各ステージを攻略していくには、そうした特性の違いを踏まえて、どのキャラクターを使ってどのように攻撃するか、 その戦略が大変重要になります。ゲイングランドが「戦略性の高いゲーム」と評されるゆえんはここにあります。
また、二人同時プレイの面白さも特筆に値します。二人同時プレイの場合も基本的な構成は一人プレイと同じですが、 敵の数や配置、捕虜となっているキャラクターの数や種類が調整されており、 一人でプレイする時とはまた違った戦略が必要になります。画面上の捕虜は救出した側のプレイヤーが所持するので、 どの捕虜をどちらのプレイヤーが救出し、どのように分担するかも、重要な戦略となります。 ちなみに、当初の予定ではさらに三人まで同時プレイできるようになっていました。三人目の色は黄色で、捕虜が赤青黄の三色に光るのはこれの名残りです。後に海外で発売されたバージョンでは三人同時プレイが可能になっています。
ゲイングランドは、セガが開発した「SYSTEM24」というマザーボード用のソフトとして供給されています。 SYSTEM24は、表示キャラクターの拡大縮小・回転機能を持ち、 496×384ピクセルという大きさの画面モードを使用しています。 当時一般的なビデオゲームが使用しているのが320×224ピクセルの画面であり、 ピクセル数比で3倍近い解像度を持っていた訳です。この高解像度を利用し、 一つの画面に細かい描写を施されたキャラクターを多数表示することができたのです。 まさに、SYSTEM24があって初めてゲイングランドというゲームが実現できたと言えましょう。
細かい解像度を活かしたデザインの一つに、キャラクターが持つ武器が、 体の右左のどちらに位置するかが設定されている点が挙げられます。 銃器を持つキャラクターはいずれも銃を右側か左側に持っており、 弾はキャラクターの体の中心から、銃を持っている側にずれた所から発射されるのです。 それが故に、敵が前方左側から来るか右側から来るかによって、その対処の難易が大きく変わります。 ただし、キャラクターデータの節約のため、体の向きによってその右左が入れ換わったりするのでおかしいと言えばおかしいのですが。
世界観
ゲーム背景は、戦争・紛争のなくなった近未来という設定になっています。 戦争がなくなったせいで闘争本能を持て余している青年のために作られた、擬似的に戦闘を楽しめる娯楽施設「ゲイングランド」 が舞台となります。この施設のコンピューターが暴走して施設内にいた若者を殺し始めたため、 救助隊を送り込んで収拾を図るも失敗。最終手段であるところの施設全体の爆破を前に、 最後の生存者救出作戦が実施された、というストーリーです。 プレイヤーの使命は、この施設の動作を停止することにあります。
この施設は原始時代・中世・近世・未来のテーマ毎に分けられており、 それぞれのステージは時代背景を反映したつくりになっています。 この設定の元に、様々な時代を反映した武装のキャラクターを出し、 古今の兵器が入り乱れた戦闘を演出しています。 「GAMEST」誌に掲載された開発者インタビューでは、 「平原で戦車に槍で立ち向かう光景を演出したかった」と記されています。
よく言われることですが、この設定は、ユニバーサル映画『ウエストワールド』に大変良く似ています。 この映画は中世・西部開拓時代などの雰囲気を楽しめるテーマパークが舞台となっており、 施設にはその時代の風俗を反映した格好をしたロボットがいて、ガンマンや奴隷等の与えられた役割を演じています。 ところがこれらの機械類を統括運営しているコンピューターが突如として狂い、 ロボット達が人間に襲いかかる、というストーリーでした。
演出
上述の世界観を表現するため、ゲーム中様々な場面での演出に工夫が凝らされています。 端的に表われているのがオープニングタイトルで、「GAIN GROUND」というゲームタイトルが表示されている背景には激しいノイズが描かれており、その間は「サーーー」というノイズ音が効果音として使われています。 コインを入れてスタートボタンを押すと、画面が左右に分かれ、 いかにもシステム内部に入っていくという設定にふさわしい演出なのですが、このとき、 いったん画面全体がノイズに覆われ、そのノイズがスーッと晴れ上がっていくと初めて最初のステージの画面が現われる、 という仕掛になっています。この演出が、「暴走したシステム」というゲイングランドの世界観の根幹を見事に表現しています。
一般的なビデオゲームでは、コインを入れる前の状態のゲーム画面は、人目を魅きつけるためにも、キャッチーな音楽・効果音を仕込むことが多いのですが、 ゲイングランドから流れてくるホワイトノイズは、逆にその特異な雰囲気が目立っていたように思います。
また、敵の動きにもこの演出は及んでいます。基本的には敵キャラクターはプレイヤーのキャラクターの方を向いて攻撃を仕掛けてくるのですが、ときおり見当違いの方向に進んでいったり、高速に不自然な動きをしたりすることがあります。 これはキャラクターの動作に乱数が仕込まれているためで、これもまた、システムの暴走に伴なって制御が乱れている状態を暗示しています。(もっとも開発者インタビューによれば結果的にそうなったという事情もあるようですが)
タイトルでの効果音演出について、マイコンBASICマガジンでの見城こうじ氏の文章を参考にしました。
登場するキャラクター
プレイヤーが使う20人のキャラクターは、その性質が全て異なっています。 ゲームに関わる主な性質は、足の速さと所持する武器で、 武器は、攻撃力・射程・弾道のそれぞれに特徴があります。 例えば攻撃力は強いが射程が短かい、あるいは射程は長いが火力がないといった特徴づけがなされています。 また、弾道が高い武器は、高い所や壁の向うにいる敵を攻撃することができます。
ゲイングランドのデザインの巧みなところは、こうした様々な特徴を持ったキャラクターを、 プレイヤーに理解しやすい形で分類しているところです。それぞれのキャラクターは、 原始・中世・近世・現代・未来の五つの時代のそれぞれを反映したものになっており、 キャラクターの特性もその時代と関連させているのです。 例えば原始時代のキャラクターは足が速く、槍や弓などの原始的な武器(射程は短かく、火力も弱い)で武装しています。 こうして、いろんな時代を反映した娯楽施設という設定にうまく絡めることで、 複雑なキャラクターの特性が理解しやすく、また納得できるようになっているのです。
ところで、施設の方は原始・中世・近世・未来の四つの時代設定になっているのに対し、 キャラクターの方はそれに現代を加えた五つの時代が使われており、勘定があいません。 実は、開発段階では「現代ラウンド」が作られていたのですが、 ゲームのプレイ時間が長くなりすぎるという理由で現代ラウンドが削られてしまったためなのだそうです。 たしかに今の四ラウンド構成のゲイングランドでも、全ステージをクリアするのに一時間近くかかるので、 これはしょうがないところでしょう。なお、次章で説明するように後日発売されたメガドライブ版では、 この削られた現代ラウンドが復活しています。
ゲーム攻略
ゲイングランドの攻略の基本は、各ステージでどのキャラクターを選択し、 どのように敵を倒していくか、にあります。この「キャラクター選択」がまさに肝であり、ステージの構造・敵の配置を把握し、各キャラクターの特徴を踏まえて考えなければなりません。 ここがゲイングランドの醍醐味と言えるでしょう。また、20種類もキャラクターがいると、プレイヤーによっても得意なキャラクターと不得意なキャラクターというものが出てきます。 この得手不得手も加わって、ゲイングランドの攻略手順はプレイヤーによって千差万別となります。
また、先述したように、敵キャラクターの動作には乱数が関わっているため、 どれほど攻略手順を突き詰めていっても、突発的なミスでその手順が狂うことは避けられません。このとき、普段の攻略手順以外の方法で如何にそのミスを回復できるかが、 プレイヤーの腕の見せどころであり、また一番面白い部分でもあります。 重要キャラクターをうっかり失った後で、そのキャラクター無しで残りのステージをどう攻略すればいいのか、 ゲームをプレイする度に様々な挑戦があり、発見があります。この失地回復の方法などは、攻略手順が煮詰まってきた現在でもプレイヤーによってまったく異なっているのがザラで、ゲイングランドというゲームの幅の広さがうかがえます。