クレイ-リストン第二戦
「血が流れだしました! リストンはよろめいています! クレイはやつぎばやに連打をくりだしています! じりじり押しています! クレイはリストンを殺そうとしています! クレイは殺そうとしています!
みなさん、リストンはダウンしました! ソニー・リストンはダウンです! クレイが踊っています……観衆に手を振り……叫んでいます!
ああ、みなさん、このシーンをどうお伝えすればいいのでしょうか、言葉が見つかりません!」
—ラジオ解説者
クレイ対リストン二回戦
というこの文章は、リチャード・バックマンことスティーブン・キングの小説『死のロングウォーク』の、とある章のエピグラフである。この小説は僕が中学生三年生の頃に繰り返し読んでいたもので、いまでもキングの小説で一番好きなものではあるんだけど、この一節はただのエピグラフなので、別に気に留めるようなものでもなく、流して読んでいた。
のだけど、今朝になって突然この文章の記憶が甦ってきて、そしてこの「クレイ対リストン」というのが、カシアス・クレイ、すなわちモハメド・アリが1964年に対戦し、世界ヘビー級チャンピオンの座を奪った対戦相手、ソニー・リストンを迎えての最初の防衛戦のことをさしているということに、初めて気がついたのだった。
モハメド・アリが亡くなった直後に色々と記事を読んだために、クレイ=アリの名が頭に残っていたとはいえ、それがもう20年以上前に読んだ小説の、どうということのないエピグラフの記憶を呼び覚まして、シナプスがつながることになろうとは。
記憶というのは本当に面白い。