よそいき言葉のピクトグラム

公共の建物におけるトイレ案内はデザインのほころびの宝庫で、なにしろ緊急事態を抱えた人の社会的な生き死にを分けるものであるから、おのずとそのデザインにもゴツゴツとした実用本位な側面がどうしても出てくる。

先日も面白いのを見つけた。とある建物でトイレを探しているときに目に入った看板がこれ。

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遠目にちょっとわかりにくいという問題はあるが、建物の雰囲気にうまくあわせてデザインされている。

ところが、実際に案内に従ってトイレの方へ行ってみると、このような光景が見えてくる。

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表のピクトグラムとはだいぶ異なる、よくあるトイレのピクトグラムを印刷した紙が壁に貼られている。遠目にもわかりやすいのはいいのだが、それまでのデザインとの統一感がなく、浮いている。

これはいったい何故だろうと思ったのだが、上の写真をよく見ていただくと、視界には”GENTLEMAN” の文字しか見えず、一見、男性用トイレしかないように見える。

ところが、角度を変えてみると、ちゃんとここには女性用トイレもあることはわかるのだが、案内に従ってトイレにやって来た人には、この情報に気づけないのだ。

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ということで、ここには男性用も女性用もありますよ、という情報を後から補う目的で、市販品のピクトグラムを貼り付けた、というのがおそらくの経緯。

この、表と裏でのピクトグラムのデザインの違いが、いいこと言ってる人が慌てたときに普段遣いの言葉が漏れ出てしまい、それまでの言葉がよそゆきのものであったことがばれてしまう様を連想させておかしい。

ちなみに、こうした後付けで貼られた、デザインの修正のことを僕は「残念なサイン」あるいは「バッドシグナル」と呼んで、収集を続けている。デザインは、事前に図面の上で完成させるのは難しい。どうしても、現場合わせでの作業が発生するものだ。むしろそのことを折り込んだ、柔軟な運用が可能な形であらかじめ設計をする必要がある。当然、その分の予算も見ておかねばなるまい。