プロトコルの発生

赤ん坊の相手をしていると、こちらの身振り手振りの語彙がどんどんおかしくなっていく。

ちょっとむずかっているときとか、あるいは笑顔を写真に収めたいときなんかに、相手の気を引こうとしてさまざまなアクションをこちらは試すんだけど、その反応はこちらの期待通りにはいかない。無反応なことも多いし、怪訝な顔をされることもよくある。

そんな相手の反応を見ながら手を変え品を変えするうちに、ときどきすごくウケるものが出てくる。その反応を見て、ウケたジェスチャーを繰り返してみたり、さらに発展させてみたりする。これを繰り返すうちに、だんだん身振り手振りが大袈裟になっていくし、それまで見たこともないような奇天烈なジェスチャーが出来上がる。

ここで忘れてはならないのは、赤ん坊の反応が、こちらの身振り手振りを解釈した上での反応であるとは限らないという点だ。もしかしたら、別にジェスチャーはなんでもよくて、ただの気まぐれで笑ったり無視したりしているだけなのかもしれない。というかおそらく大半はそうだろう。

ところが自分の方では、キャッキャと楽しげに反応する赤ん坊に気をよくして、いまウケたジェスチャーを繰り返したり発展させたりしてさらなる反応を伺っていたりする。新しく出来上がったジェスチャーは誤解の上に成立しているのかもしれないのに。

挨拶する時に手を振ったり、握手を交したり、見知らぬ人に笑顔を見せようとしたりといった「プロトコル」の起源も、あんがいそんな程度のものだったりするんじゃないだろうか。