『Watch Dogs』感想
Ubisoft の期待の新作 Watch Dogs を、発売からだいぶ経ってしまったがようやく一通り終えることができた。さすがに Assassin’s Creed を開発した Ubisoft Montreal の作品だけあって、ゲームメカニクス的にはとてもよくできたゲームで、遊べるゲームという意味では面白く遊べたのだけど、設定やシナリオの面においては、僕はこれを作った人達を心底軽蔑する。これほど腹を立てながらやったゲームはない。僕にとっては間違いなく生涯レベルでのワーストゲームである。
Watch Dogs は、劇中「ctOS」と呼ばれる、街のあらゆる機器や情報が接続されたシステムが組み込まれ、スマートシティ化したシカゴを舞台としている。街中に設置された監視カメラとネットワーク監視、さらに加えて開発が進行している行動予測AIによる市民監視社会が構築されつつある。劇中はっきりと描かれている訳ではないが、人々が日々目にする情報を制御することで、人の行動を変えることすら可能になりつつあることが示唆されている。
当然、ゲーム全体としてはそうした監視社会に対する批判を意図して設計されているのだが、そんな「メッセージ」を軽くふっとばすようなゲームシステムが用意されている。主人公はこの ctOS を自在にハックできる凄腕ハッカーなのだが、なんとその能力を使ってこのシステムにうかうかとのっかり、行動予測AIが推測した、犯罪を起こしそうな人物のところへおもむき、犯罪が起きるのを待ってから 自警団行為をはたらくのである。
しかも、犯罪が起きてから犯罪者を確保すれば市民の賞賛を得られるのだが、犯罪を起こそうとしている者に犯罪が起きる前に干渉し、犯罪を未然に阻止しても、何も起きないどころか、ゲームシステムからダメを出されてしまうのだ。
監視社会を背景に、犯罪を起こしそうだと体制側から判断された市民が排除される、というタイプのデストピアものは数多く書かれてきたが、その市民側が体制側の犯罪予測にのっかって自警団行為を働くなんて、どんなデストピアものでも描かれたことのない、最低の設定だろう。
結局このゲームは、表面的には監視社会に対する批判として体裁をとりつくろっているが、その内実はサイファーパンクやアノニマスといったコンピュータネットワークを舞台にした反監視・反体制活動をただのファッションとして取り入れただけの、それこそ hack & slash ゲームでしかない。
それだけではない。主人公は運転中に襲われた巻き添えで家族の一人を失うのだが、その癖、敵方への復讐中、容赦なく相手の車へ攻撃を加える。しかも一般市民の車両も平気で巻き添えにしたりする。僕はこれが嫌で嫌で、何度かゲームをリセットして他の方法がないものかと挑んでみたのだが、ゲームの腕が相当でないとまず無理。
他にも、自警団行為で市民の賞賛を稼ぐ一方で、他人の車を無断拝借した挙句にダッシュボードに入っている現金はちょろまかすは、他所の家のカメラにアクセスして覗き見行為をはたらくは、およそ魅力的な主人公とは言い難い。かといってそういうことをまったくやらずに済ませようとすると途端にゲームの難易度が跳ねあがりほとんど続行不可能になる。
ゲームメカニクス面はとてもよくできている分、ゲームを隅々まで楽しもうとすればするほどこうした設定の不愉快な部分に直面せざるをえないため、メインシナリオを終わらせた後、これ以上 Watch Dogs をさらに遊びたいという気分には到底なれなかった。
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