スクリーンの向こうに広がる世界

明治大学が学生向けに配布している情報誌『M-style』の、新入生向け特別号に寄稿した記事をこちらにも再掲します。


新入生の皆さん、大学へようこそ!大学生になったら〜♪とばかりに色々やりたい事を夢見ながら今まで頑張ってきたみなさん、いよいよその時です。学問に遊びに仕事に、新しい世界にどんどん足を踏み入れましょう。

さて、その新しい世界を体験する方法の一つに「旅」があります。夏休みに海外旅行に行きたいな、なんて思っている人も多いと思いますが、一方で「知らないところに行くのが怖い」なんて人もいる。でもそこを乗り越えないと旅の愉悦は味わえないんだよなぁ。なので、そんなタイプの皆さんにいい方法をお教えしましょう。それは外国映画を沢山観ることです。

映画ってのは面白いもので、画面をよく観ると雑多なものが色々と写りこんでいて、それらはその街のその瞬間の生活を反映している。喫茶店の看板もたまったタバコの吸殻も、どれもがその街の風景の一部。その街にはどんな人が住んでいてどんな生活をしているのか、そんな想像を刺激する要素がいっぱい隠れているのが映画なんだよね。

ところで、外国映画はわからないことだらけだから観ないという人も結構多いなんて話も聞くけど、まあわからないでもない。映画で描かれる風景は、そこ独特の生活の上に紡がれるもの。その普段の生活を僕らはあんまり知らないものだから、そこかしこで「?」となってしまう。そんなのが沢山あると、「もうダメ、わからん」となっちゃうみたい。

でもね、わからないことを乗り越えて理解するというのは、とても大切なことなんだ。

僕の大好きな映画の一つに、「モンティパイソン アンド・ナウ」というイギリスのコメディがある。テレビのコメディ番組を映画にまとめたものなんだけど、とにかく凄く面白いのでまぁ観てください。それまでのコメディの「お約束」を破りまくったため、コメディ史を「パイソン前」と「パイソン後」に分けた、と言われるくらい画期的なコメディ番組なのです。ただ、40年以上前の、しかもイギリスのコメディということもあってチンプンカンプンなギャグも結構ある。

でも、テレビのコメディがそんなにチンプンカンプンってことがあるだろうか。そんなはずないよね。コメディなんだから。モンティパイソンのギャグは、当時のイギリス人にはおなじみの生活に根差したもの。たとえば、読むと笑い過ぎて死んじゃう「殺人ジョーク」というギャグがあって、これを第二次大戦でドイツ軍相手に使う場面があるんだけど、これも当時のイギリス人にしてみればほんの30年前くらいの戦争をネタにしたもので、身近な題材だったんだよね。

そんな風に、わかりにくいことでも、その裏側には生活があり歴史があり、つまりは自分と同じような生きた人々がいて、そこでの当たり前のことが静かに反映されているに過ぎない。

自分の生活に閉じこもってしまうと、その外にいる人は自分と異なる生活を営んでいるということに思い至らなくなってしまう。人どうしのいがみ合いというのはえてして想像力の欠如から生じるものだ。映画は、そして旅は、そんな風に固くなってしまったアタマを揉みほぐすのにいい刺激になる。

平和っていうのは、相手の生活に敬意を持つその想像力から生まれるんじゃないかな。