査読プロセス円滑化のための
「一言査読コメント」

学会や論文誌編集における査読会議というのは、たいてい色々ともめるので時間がかかりがち。 その時間を短縮するための方法として、昔一度試した「査読一言コメント」というやり方を紹介します。これは通常の査読結果とは別に、査読結果の要約を一行でまとめてもらうという試みで、インタラクション2009におけるインタラクティブ発表(デモ発表)の査読プロセスで採用したものです。その時にプログラム委員会に送信した依頼文から該当部分を抜粋します。

「一言コメント」は、査読判定会議の際に委員でざっと一言コメントを眺めて、 その論文がどのように判断されているかを迅速に把握することを目的としています。そのため、ここで求められている記述は、「その論文の概要」ではなく、皆様が下した「査読結果の概要」となります。

つまり、「見た目は面白そうだけど技術的に新規性がない」「×××ができる入力インターフェイス。新しいし応用も広そう。」といった記述の方が、 「×××を実現した入力インターフェイス」とだけあるよりも好ましくあります。

また、このコメントは著者には返りません。「キツいことを書いてよいか」という質問がありましたが、忌憚のないご意見を書いていただければと思います。ただし、 査読判定会議においては皆でこれを眺めることとなります。誰がそのコメントを書いたかは判定会議でも公開されませんが、その点はご留意ください。

結果として、このやり方はかなりうまく機能しました。判定会議では、予定した時間を大幅に超過することもなく、議論も十分にできたと思っています。最大の利点は、それぞれの論文における査読者の判断傾向が一目で把握できる、ということでしょう。 一般的には、査読結果を表すスコアが数値として出ているのでそこから傾向はもちろん読み取れるのですが、査読者間で判断が割れている時などにその原因を瞬時に見てとることができるのはおおいに時間短縮に役立ちました。また、プログラム委員長として、全体の査読結果に目を通し、判定会議で時間がかかりそうな論文を先に把握しておくのにとても役立ちました。

なお、上の依頼文でも書いてはいましたが、一言コメントは「論文の要約を書く欄」である、という誤解がやはりありました。加えて、人によっては度を超して辛辣なコメントをしがちなので、これはプログラム委員全員が目にするものだ、ということもあわせて、事前の周知はしっかりしておく必要があるでしょう。

ただ、この手法は、インタラクティブ発表という、論文のページ数が2ページ程度、150件の投稿から60件を選ぶ作業を円滑化するために導入したもので、そうした条件下の査読だからこそ必要だった、という側面もあります。ジャーナル論文のようにじっくりと時間をかけて査読プロセスを進めるような場合には、おそらく無用でしょう。投稿件数の多い学会や特集号論文などで、導入を検討されてみてはいかがでしょうか。

2010.10.1